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Max E4系の引退によせて

■交通新聞平成29(2017)年4月10日付記事より


上越新幹線にE7系を投入
JR東日本20年度末までE4系置き換え



 JR東日本は 4日、2018(平成30年度)から上越新幹線にE7系車両(12両編成)を順次投入すると発表した。2020年度末までに11編成 132両を導入し、現在のE4系( 8両編成)を全てE7系に置き換える。総投資額約 380億円。




 (記事本文前略)
 現在、上越新幹線では乗客の多い通勤時間帯にE4系を 2編成連結して16両編成で運行しているが、E7系投入後は増発などで対応するとしている。


 





■最大輸送力車両の引退



 JR東日本E4系は現在残る唯一の二階建て車両であり、あまりにも特徴的な外観は美しいとは到底いえない。しかしながら輸送力は特筆大書もので、一編成座席定員 817名、二編成連結で座席定員 1,634名と、全世界の高速鉄道列車のうち最大輸送力を誇る。輸送力最大という観点において、最も新幹線らしい車両、と評することができよう。

 Multi Amenity EXpress を略して 「Max」と称されているのは周知のとおり。言い得て妙というよりもむしろ、アウトプットの 「Max」に合わせ単語を無理矢理につないだ印象が伴う。輸送力最大という意味で素直に 「Max」を名乗っても良かったと思う。



 筆者個人の感覚では実は、数ある新幹線のなかで最も好きな車両の一つである。輸送力最大に関しては前述したとおり、なんといっても電動機出力 420kW、ずば抜けた力強さに好感を持つ。最新の新幹線車両でも 300kW級(N700系で 305kW)だから圧倒的だ。

 そのかわりE4系は高速性能がいまひとつ、最高速度は 240km/hにとどまる。MT比は4M4Tと半々、新幹線で T車の比率が最も高い系列であるゆえか。その一方で、永久磁石電動機実用化以後の開発であれば、より高い電動機出力が得られ、より高速度で運行できたのではないか、……と楽しい連想が湧いてくる。

 そのE4系が引退間近と報じられた。営業運転初年度が平成 9(1997)年、すなわち北陸新幹線高崎-長野開業時期と同じで、2Decades という時間を走りこんできたことになる。引退はやや早いようにも感じられるが、最高速度が劣後するせいか東北新幹線からはすでに退いている。ほかにも何か、使いにくい要素があるのかもしれない。

 例えば二階自由席車の3+3列シートやバリアとなる階段は、最大輸送力確保という命題の二律背反事項で、長所と短所がまさに表裏一体となっているという意味においても稀有な車両であった。筆者はE4系の引退を惜しむ一人である。

 最大輸送力車両の引退は、上越・北陸新幹線の輸送体系に影響を与えずにはいられないはずだ。後継E7系一編成の座席定員は 924名と、E4系一編成を上回るものの、E4系二編成連結列車と比べれば 700名以上も下回る。

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新潟に停車中のMax E4系二編成16両連結列車 (平成26(2014)年撮影)
最大輸送力列車を的確に写真にするのはなんとも難しい……


 交通新聞報道を見るまでは、16両編成のE7系が製造されるのではないか、……という類の想像を逞しくしていたが、現行同様12両編成で確定である。E2系16両化も経年からして考えにくい。E5系+E6系連結編成が上越新幹線進出を果たせば相応の輸送力を確保できるものの、最高速度が 240km/hに抑えられている上越新幹線に最高速度車両を投入する意義は薄いと思われる(経年が進めば話は別だが)。

 すなわち、JR東日本は12両編成E7系投入によりE4系は置換可能、と考えていることになる。そんなことが本当に可能なのかどうか、数字を以て検証してみよう。

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大宮に停車中のMax E4系 (平成14(2002)年撮影)
なんとも酷い腕前の写真だ……


 





■上越・北陸新幹線の輸送力



 JR東日本は公式HP上で上越・北陸新幹線含む全路線の断面交通量を公表している。同様に、平成27(2015)年 3月ダイヤ改正前後の上越・北陸新幹線の列車運行本数も公表している。これらを基にして、平成26(2014)年度及び平成27(2015)年度の上越・北陸新幹線一列車あたり乗車人数を試算すると、下表のとおりとなる。

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上越・北陸新幹線の断面交通量(上:平成26(2014)年度 下:平成27(2015)年度)


 北陸新幹線金沢開業のインパクトは実に大きく、高崎-長野間の断面交通量は倍増している。とはいえ、乗車率(E7系基準)だけを見ると、大宮-高崎間以外の区間では輸送力に余裕があるようにも見える。……本当にそうか。とくに高崎-長野間では逼迫している、というのが実態だろう。

 午後の上り「はくたか」自由席車に乗ったことがある方ならば、北陸新幹線の輸送力には余裕がないと実感するはずだ。最も混む列車では長野で席が埋まり、軽井沢で通路まで立客があふれ、高崎-大宮間ではさらに寿司詰めになるという、厳しい混雑状況を呈している(筆者は何度か実体験している)。一年を均してみれば乗車率65.6%であろうとも、個別の列車には大混雑がありえる、という話だ。

 平成28(2016)年 3月ダイヤ改正では「特に混雑する時間帯(概ね16時から18時台)に、本庄早稲田駅に停車する上り列車の本数を見直します」と理由の説明がなされたうえで、本庄早稲田18時台発の「あさま」 2本が「とき」に振り替えられていることから、午後の上り「あさま」も相当に混雑していると推測できる。

 更に平成29(2017)年 3月ダイヤ改正では、「夕時間帯で特にご利用の多い17時台東京着列車を新たに設定し、夕時間帯の混雑緩和を図ります」ということで、前年ダイヤ改正で本庄早稲田停車となった「Maxとき330号」の時刻が繰り下げられ、「Maxたにがわ412号」が新設されている。

 上記より、JR東日本は午後の上越・北陸新幹線高崎→大宮間の混雑緩和対策を進めていると理解できる。その背景のなかで、E4系の引退、しかも12両編成E7系への統一という方向性をどのように理解すべきか。

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東京に向かうMax E4系列車 (平成26(2014)年撮影)
最大輸送力列車を綺麗に俯瞰できる場所はなかなかない……


 





■JR東日本の次の一手



 最もありそうな選択肢と筆者が睨んでいるのは、午後の上り「かがやき」増発である。現行ダイヤでも予定臨「かがやき 542号」(東京着17時19分・主に土曜祝日運転)が設定されており、これの定期化+αの増発がありえる。これは金沢・富山→首都圏間速達列車増発ニーズに応えるものであると同時に、長野以南で混雑する「はくたか」の負荷を軽減する措置にもなる。

 更にもう一手を打つならば、上記のいわば輸送力「かがやき」の軽井沢停車がありえる。現行「かがやき」は軽井沢通過時にかなり減速しているから、所要時間延は他駅停車よりも小さい。その所要時間延のデメリットよりも、指定席車の空き(余剰輸送力)を最大限に活用する方が、よほどメリットが大きいはずだ。満席時には立席特急券を供給すれば、高崎-大宮間の負荷低減(列車毎の混雑平準化)に寄与するだろう。

 直接「あさま」を増発する手も当然考えられるが、上り「かがやき」増発+軽井沢停車という一手の効果は相当高いと見る。実際にJR東日本がどのような手を打つのか、興味津々である。

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長野に停車中のE7系列車 (平成27(2015)年撮影)
北陸新幹線の列車は利用者インターフェース最良のE7(W7)系に統一されE2系復帰の目は薄い


 





■小で大を兼ねる


 E7系12両編成では、E4系二編成連結列車の輸送力には到底及ばない。それゆえ、朝夕の通勤対応列車に関しては、増発によらざるをえないと想定される。

 かようなパートタイマーの列車には現役最古参のE2系が充てられるのだろう。通勤対応列車ではなんらかの形で16両編成を組成するべきであろうが、前述したとおり、経年からして大きな手を加えるとは考えにくい。

 E2系に小さな手を加えるならば、自由席車を2+2列シートにして立客スペースを確保する……なんぞという粗雑かつ乱暴な一手がありえる。もっとも、こんな手を打てばさすがに、利用者からはムシロ旗が上がるのではないか。

 現有E4系は23編成 184両(前掲交通新聞記事より)。つまり12編成52両を減じる大規模な「スモールチェンジ」が行われるわけだ。否、E4系二編成連結列車を基準とするならば、単純にE4系11.5編成 184両がE7系11編成 132両に置き換わるだけ、ともいえる。



 このように記すと、JR東日本は如何にも粗雑かつ乱暴な手を進めていると印象されるかもしれない。しかしながら、実態はおそらく異なる。輸送体系の重点が上越新幹線から北陸新幹線にシフトした、ということではないのか。

 前掲二つの表を見比べていただければ一目瞭然。北陸新幹線金沢開業前後で高崎-越後湯沢間と高崎-長野間の断面交通量は逆転した。中長期的に差が縮まることがあっても、再逆転はほとんどありえないほどの大差がついたと見てよい。JR東日本は北陸新幹線を基軸とする輸送体系を組み立てる決意を固めたのかもしれない。

 北陸新幹線は最大でも12両編成の列車しか入れない。その北陸新幹線の列車編成を以て、最大16両編成の上越新幹線の輸送をもカバーするという、いわば「小で大を兼ねる」課題にJR東日本は取り組もうというわけだ。それなりに難しいとはいえ、決して解決不可能な困難とはいえまい。ただし、例示した2+2列シート改造のように、利用者に皺を寄せる手を打つ可能性も充分あるため、批判的な目による注視も必要だろう。

 E7系は、最高速度等の性能面はともかくとして、利用者とのインターフェース――特に乗り心地――の出来は掛け値なしに素晴らしい。E7系に乗り慣れてしまった筆者にとって、N700系あたりのインターフェースは素寒貧に見えてしまう。そんなE7系であっても、輸送力ではE4系二編成連結列車やN700系列車に遠くおよばない。「小で大を兼ねる」であろう北陸新幹線において、どのような手が打たれていくか、注目に値する。




■余談



 巨大なE4系二編成連結列車は空中からの記録にも刻まれている。長大な編成ゆえ二回の撮影にまたがってしまったようで、北側の編成が寸詰まりになっているのが御愛嬌である。【CKT20092-C55-14およびCKT20092-C55-15】

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地理院地図に姿を刻むMax E4系列車 (平成19(2007)年以降の撮影)
神田-秋葉原間を走行中/右が北になるよう画像を回転


 この写真は、今日すでに撮影することが出来ないという意味において貴重である。東北線と東海道線を結ぶ、上野東京ラインの高架橋が完成したため、東北新幹線の軌道面上の一部は空からうかがうことが出来ない。上の写真でいえば、南側編成の半ばは在来線高架に覆われているはずだ。

 E4系 Maxが去り、上野東京ラインが新しい人の流れをつくる。諸行無常というべきか、転石苔を生ぜずというべきか。いずれも人の世の常ではある。