鉈の研ぎ方(片刃の鉈の場合):砥石の選び方から仕上げまで

各地の鍛冶屋さんを訪ね歩いた際に教えてもらった鉈の研ぎ方と、本などで仕入れた知識をいいとこ取りでアレンジし、10数年間の自分の研ぎの経験も踏まえて、私なりに鉈の研ぎ方のノウハウをまとめました。片刃の鉈(と切出し小刀)は、研ぎ方が非常に簡単で分かりやすいので、研ぎの基本をマスターするにはもってこいの刃物です。片刃でしっかりと研ぎのポイントを押さえれば、両刃の蛤刃の鉈や各種包丁等も基本動作は同じなので、刃の形状に臨機応変に対応して自然と研げるようになるはずです。私は洋式のナイフも同じ様に研いでいます。洋式ナイフには関心が薄く、数もあまり持っていないので、和式と同じ研ぎ方で良いのかどうか知りませんが、きれいに刃が付いてちゃんと研げているので全く問題ないと思います。

刃物のメンテナンスの重要性

C.W.ニコルは著書の中で、「ナイフをひと目見れば持ち主の性格がわかる」「手入れの悪いなまくらなナイフの持ち主は、退屈でだらしない使えない人間に違いない」と、繰り返し述べています。逆に言うと、切れるナイフの持ち主は性格もシャープだという訳です。日本語でも「切れる」とか「切れ者」いう表現は、思考が鋭敏なデキル人間という意味で使われます。ただし、最近のDQNな若者が好んで多用している「キレル」という表現は、彼らのか細い未熟な理性の糸が、頭の中で「プッツン」とか「ブチッ」とかマンガ的な擬音を発してブチ切れるという意味であって、刃物の切れ味が良いことに例えた「切れる」とは同じではありません。「堪忍袋の緒が切れる」の「切れる」と同じ「キレル」です。ちょっと(だいぶ?)前にニュース23で筑紫哲也が、若者の「キレル」を刃物になぞらえた表現と勘違いしているのを見て、呆れてしまいましたが、若者のキレルと刃物の切れるを一緒にしては、それこそクソもミソも一緒です。話が脱線しましたが、要するに、きちんとメンテナンス(研ぎ)ができて初めて、刃物のユーザーとして一人前だということです。

刃物は常にシャープな状態を維持していることが大切ですが、刃を「研ぐ」ということは、少しずつ「減らす」ということでもあります。あまり神経質になりすぎて無駄に刃を研ぎ減らさないということも非常に重要で、最小の研ぎで最大の切れ味を引き出すのが理想的です。また、剣鉈を万能刃物と勘違いさせるような宣伝や記述をよく見かけますが、剣鉈を含めて、オールマイティーな万能刃物はありません。1本で何でもやろうなどと考えず、用途に応じて適切な刃物を使い分けるのも重要なスキルで、刃物を長く大切に使うコツです。

 

砥石を選ぼう

研ぎが上達する最大の近道は、大きくて据わりの良い砥石で余裕を持って研ぐことです。携帯サイズの小型の砥石は、小型の刃物用には使えるかもしれませんが、包丁やそれ以上のサイズがある刃物や、鉈などの大型の刃物を研ぐには非常に不向きで、技術習得の妨げとなって結果的に遠回するハメになります。研ぎの上達には、充分な長さと幅があってずっしりと重量感がある砥石を選ぶことが何よりも重要で、また、高価で小型の「天然砥石」だったら、何倍も安くて大きな「人工砥石」の方が、格段に実用的で優れています。通常は、♯240の荒砥石と♯1000の中砥石があれば充分です。

荒砥石(♯240推奨)

大きな刃こぼれの修正や刃の角度を変えたり、ザクザクと一気に荒おろしする際に使用する。慣れないうちに荒砥石を多用すると無駄に刃を研ぎ減らす恐れがあるので、用途を限定する方が良い。特に(私みたいな)神経質な性格の人は余計な無駄研ぎをする心配があるので要注意。

中砥石(♯1000推奨)

包丁も鉈も通常のメンテナンスには♯1000の中砥石1本で充分。プロは作業効率と時間短縮のために荒砥→中砥→仕上砥と使い分けるが、普段からマメにメンテナンスしていれば、荒砥石が必要なほど刃を落としているようなケースは少ないはずです。ピカピカに磨き上げたい場合は、さらに仕上砥石を使用する。

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私が現在持っている砥石・左の3本が今まで使用してきた砥石で、右の2本は新しく買った砥石

新しく買った荒砥石と中砥石

この2本は、プロが太鼓判を押して推奨してくれた砥石です。アフィリエイトを貼ってる訳でも何でもないので、宣伝しても私には一銭の得にもなりませんが、プロから聞いた話なので砥石選びの参考になるかと思います。

朝日虎印金剛砥石 Sun Tiger 粒度♯240

①朝日虎印金剛砥石 Sun Tiger 粒度♯240

キング デラックス 標準型・粒度♯1000

②キング デラックス 標準型・粒度♯1000

朝日虎印 金剛砥石 Sun Tiger 粒度♯240 中研ぎ用(荒砥石) (写真①) 

205×50×25mm・450g 1,200円で購入
刃物研ぎ稼業30数年という近くの町の刃物店の主人の強力な推薦で購入した。外箱には「中研ぎ用」と書いてあるが実質的には「荒砥石」で、大きな刃こぼれの修正や刃の角度を変えたりとザクザクと一気に荒おろしする際に使用する。一般に、メーカーで荒研ぎ用と称している♯120とか100番台の砥石は、目が粗すぎて刃が砥面に掛からず滑りやすので使いにくく、♯240から♯1000の中間の番手に関しては使う意味自体がほとんどないので、荒砥石は♯240だけあれば良いとのこと。キャリア30数年の実績ある刃物店の話として参考まで。

キング デラックス 標準型・粒度♯1000 中仕上用(中砥石) (写真②)

207×66×34mm・980g 1,150円で購入
10数年前に各地の鍛冶屋さんを訪ね歩いた際、どんな砥石を使ったら良いのかと質問すると、イの一番に名前が挙がったのがこの「キング砥石」。ネットで調べてみるとやはり、刃物を扱う様々なプロ用のディフェクトスタンダード的な砥石のようで、標準型でも充分なサイズでずっしりと重く、据わりが良くていかにも使いやすそう。同じ番手の貝印の砥石が家にあったので今まで買わないでいたが、そう高い物ではないので、ていうか、非常に安い物なので今回新たに購入した。ネット通販では大体1,500円前後するが、建設資材等を扱っている金物屋さんで1,150円と安く買えた。通常のメンテナンスは、この中砥石1本で充分。

 

 

鉈の研ぎ方/右利き用片刃の場合

砥石に水を含ませる (通常のメンテナンスなので粒度♯1000の中砥石を使用)

①砥石からブクブクと泡が出なくなるまで(約5~6分)水に浸けてたっぷり水を含ませる。砥石に水を含ませるのは摩擦熱で刃に変な焼きが入ったり、摩擦熱が冷める時に刃の焼きが戻ってしまったりするのを防ぐため。刃におかしな熱が入ってしまうと、切れ味が落ちたり、刃先がもろくなって欠けやすくなったりするので、必ずたっぷりと水を含ませる。
②砥石がズレて動かないように濡れ雑巾などを敷いて、水平な場所に砥石を置く。今回使用した砥石は滑り止めのゴム台が付属しているのでゴム台にセットした。ゴム台でも滑ってズレる場合は、ゴム台の下にぬれ雑巾を敷くと良い。うちの場合は、縁側の踏み石が驚くほど具合の良い研ぎ台になっています。

*砥石がずれて不安定だと非常に研ぎにくいので、砥石は動かないようにちゃんと固定する。
*使用した1000番の中砥石は、サイズは186ミリ×62ミリで、鉈を研ぐのに不都合はないサイズだけど、感覚的に少しばかり重量感が物足りません。砥石は大きくて重い方が据わりが良く断然使いやすいので、新しく購入される場合は、ゴム台は無くてもいいから、もうひと回りか二回り大きいサイズの物をお勧めします(私はこのページを作成した直後に、ひと回り大きい砥石を揃えました)。

あぶくが出なくなるまで砥石に水を含ませる

あぶくが出なくなるまで砥石に水を含ませる

研ぐ際の砥石と鉈の角度

研ぐ際の砥石と鉈の角度

研ぎ出し

刃を手前に向け、砥石に対して斜め(約45度~60度)に構える。刃を手前に向け、砥石に対して斜め(約45度~60度)に構える。
両手の親指を切刃の裏に乗せて、親指の腹で力加減をコントロールする。

*刃を斜めにすると、刃と砥石が接する面積が大きくなり、ストロークも大きく取りやすくなる。

*砥石と刃を直角に構えると、ストロークを大きく取りにくい。また、刃角を一定に保ちにくく、しゃくり研ぎになりやすい。 刃角を一定に保ったまま、平行に押し出して研ぐ。押し出す時に力を入れて研ぎ、手前に引く(戻す)時には力を入れない。

*引く(戻す)時に力を入れると、刃で砥石を削り取って砥石の表面を荒らしてしまう。また、そうして荒らした砥石に刃を引っかけて刃先を潰してしまい、当然いつまで研いでも刃は付かない。

*慣れないうちは、引く(戻す)時は刃を砥石に付けずに浮かすようにすると良い。 片刃の場合、基本的に切刃を砥石にべったり付けてベタ研ぎすれば良いが、あくまで研ぐのは刃先であって、しのぎの方をいくら研いでも刃が付く訳ではないので、刃先が常に砥石に当たっている状態を、親指の腹で意識するようにする。
途中、何度も砥石に水を与えながら、ブレードの刃元から切っ先までまんべんなく、刃先に薄く均一にメクレが出るまで研ぎあげる。

*砥石の研ぎ汁はなるべく落とさない方が良いという説が一般的だが、砥石の種類によっては目詰まりさせることもあるので、汚れが溜ってきたら適度に洗い流す方が良い。

裏研ぎ

まんべんなくメクレが出るまで切刃を研ぎあげたら、軽く数回裏研ぎして、メクレを落とす。

*メクレというのは刃先にできるバリのことで、指で触るとザラザラするのでわかる。

*研ぎ出しは常に刃面(切刃)で行い、裏研ぎは単にメクレ(バリ)を落とすだけ。

裏研ぎは切刃と反対の面になるので、手前に引く時に研ぐ(刃の方向は変わらない)。

裏研ぎで表にメクレが出たら、表裏と軽く研いでメクレを落とす。

*裏研ぎする際はベタ研ぎせず、棟(峰)を少し浮かせて刃先だけを砥石に当てて研ぐようにすると、刃先の先端が若干鈍角になって欠けにくくなり、刃持ちがぐっと良くなる。

仕上げ

研ぎ上がった鉈は、研ぎ汁をきれいに洗い落とし、赤錆が浮かないうちに素早く水気を拭き取って完全に乾かす。柄が濡れると中子が錆びるので、洗う時は柄を不用意に濡らさないように注意する。完全に乾かしたら、刃面に椿油などを薄く引いて錆止めし、鞘に収める。

*鉈は別に観賞用の美術刀剣ではないし、特に微妙な仕上げが必要な刃物でもないので、仕上げ砥石で刃面をピカピカに磨き上げる必要はありません。粒度♯1000の中砥石で刃を研ぎ出して椿油を引くだけで充分です。

研ぎ上がった鉈

研ぎ上がった鉈

なたの切刃のアップ

切刃のアップ