「ポケベルってなんですか?」ポケベルを知らない世代が取材してみたら、新鮮なエピソードだらけでした

さて、みなさんは上の写真の端末をご存知だろうか?

1990年代前半に一大ブームを巻き起こした「ポケベル」ことポケットベルである。

平成生まれの筆者も名前だけは聞いたことがある。しかし、どう使うのかはよく知らないし、実物を見たこともない。そのため、とうの昔に無くなってしまったものかと思っていたら、今もなおポケベルのサービスを提供し続けている「東京テレメッセージ」という会社があるとの情報をキャッチした。

スマホ全盛の今、過去の遺物といったイメージすらある「ポケベル」を、誰が、どんな用途で使っているのか? そもそも、ポケベルって何なのか? ポケベルを知らない若者の目線から、同社を取材してみた。

「0840」「33414」「-015」……、数字でメッセージを伝えていた初期のポケベル文化

東京テレメッセージは1987年からポケベル(無線呼び出し)のサービスを開始。2007年3月にNTTドコモが同サービスを終了して以降、現在では唯一のポケベル事業者となっている。

今回お話を伺ったのは東京テレメッセージ株式会社・代表取締役の清野英俊さん。まず、筆者含めポケベルを知らない世代のために、そもそもポケベルとは何なのか、どう使うものなのかから教えていただいた。

 

清野社長(以下、「」内全て):「簡単に言うと『受信のみが可能な通信機』ですね。メッセージは公衆電話などのプッシュホンから送るのが主流でした。最初は『数字』しか受信することができず、『0840(おはよう)』や『724106(なにしてる)』といった語呂合わせや暗号で、簡単なメッセージをやりとりするものだったんです」

なんだかスパイのようである。しかし、語呂合わせにも限界があるだろうし、数字だけだと伝えられることがかなり限定されるような……。

「ですからみんなが知恵を絞って、色んな言葉を数字に置き換えていた。『114106(あいしてる)』とか、『33414(さみしいよ)』とか、『-015(ボウリング行こう)』とか、数字のみの時代は色んな語呂合わせが生まれていたようです。その後、数字が文字に変換されるポケベルが登場し、11で『あ』、21で『か』、12で『い』といった入力が可能になりました」

「-015」がなぜボウリングなのかは筆者にはわからないが、そうした「暗号」を考えるのも含めてひとつの文化だったのだろう。メールやLINEで手軽にやりとりできる現代の感覚からすると不便に思えるが、不便なりに工夫して新しくルールを生み出す楽しみ、みたいなものもあったに違いない。

ベル友、ドラマ化、女子高生……やがてブームは「社会現象」へ

なお、東京テレメッセージがサービスを始めた当初はサラリーマン向けのサービスだったそうだ。それが90年代中盤に入ると若者層にまで爆発的に普及。ピーク時には時代を象徴するアイテムとして、社会現象と呼べるほどの盛り上がりを見せていたという。

「1996年のピーク時には、約1100万人が利用するほどの人気アイテムになっていました。会社員から女子高生まで幅広い世代が持つようになり、ステータスシンボルのような位置づけだった。当時は、休み時間になるとポケベルにメッセージを送るために公衆電話に人が殺到していましたよ。

また、90年代前半にはポケベルの専門誌やポケベルを題材にした歌、連ドラまで作られたくらいですからね。他にも、駅の掲示板に自分の番号を書いて友達を増やす『ベル友』も流行りました。今では離れた相手にリアルタイムで連絡をとるなんてことは容易になりましたが、当時は、ものすごく画期的だったんですよ」

ポケベルを題材にした連ドラとは驚きだ。調べてみたら土曜21時というバリバリのゴールデンタイムに放送されており、まさに世相を象徴するアイテムだったようだ。スマホの利用者は現在5000万人を超えているというが、民放の看板枠に据えるコンテンツにはなっていない。ポケベルが当時の社会に与えたインパクトの大きさをうかがい知ることができるエピソードである。

ちなみに、当時のポケベルの価格は4万円程だったそう。端末自体は割高だが、単四電池1本で1カ月は持つほど「省エネ」性能に優れていたとのこと。

▲普及率が上がっていくにつれて、デザインや大きさも多様化。見た目に工夫を凝らしたポケベルも数多く発売された

今も医療関係者の間でポケベルは利用されている

 そんな、一時代を築いたポケベルも、携帯電話の登場により利用者は激減してしまう。次々と事業者が撤退し、最後の一社となってもなお、同社がサービスを継続しているのはなぜなのか?

「もちろん、利用者がゼロになればサービスは終了します。しかし、未だに20年前のポケベルを使用されている方が、首都圏だけで1500人くらいいるんですよ」

なんと、意外に多い。しかし、それにしては(少なくとも筆者の周囲では)使っている人を見かけたことはないが……

「じつは、利用者のほとんどは医療関係の方なんです。というのも、ポケベルは電磁波を出さない通信機なのでペースメーカーなどに影響を与えません。さらに、ポケベルで使われる280MHzの電波はレントゲン室のような窓がない部屋にもしっかり届くんですよ」

なるほど、医療関係者か。どおりで、医療無関係者である筆者の周囲には所持者がいなかったはずだ。

清野社長によれば「昔の『いつ、どこにいてもつながる』というイメージから、お守り感覚で持っている方も多いかもしれませんね」とのこと。280MHzの電波とは、それほどまでに強力なものらしい。

防災アイテムとして導入が進む「進化系ポケベル」

そして、その「つながりやすさ」は今、意外なカタチで脚光を浴びている。

「280MHzの周波数は建物内、地下、上空といった“受信しづらい場所”でもつながりやすい。その特性を生かし、現在では災害時における活用法が見直されています。ポケベルの端末自体の販売は終了していますが、弊社ではポケベルと同じ電波をキャッチする戸別受信機を製造し、防災アイテムとして役立ててもらうべく働きかけてきました。2006年に東京都江東区、2008年に豊島区、神奈川県茅ヶ崎市に導入され、現在では20の自治体で採用されています」

▲こちらがその「戸別受信機」。見た目はレトロだが、こいつが意外にもハイテクなのだ

「こちら、ポケベルとは似ても似つかない見た目ですが、同じ280MHzの周波数を利用した受信専用端末という意味では、“ポケベルの進化系”といえるかもしれませんね。なお、こちらは文字をディスプレイ表示するのではなく、受信した文字を音声へ変換して読み上げます」

聞いてみると耳障りでない、滑らかな音声である。さらにラジオも聞けるそうである。これが、災害時に大活躍するというのだ。

「災害時には正確な情報をいち早く掴み、適切な行動をとることが重要です。しかし、自治体が警報や避難指示などをアナウンスする屋外スピーカーの音は、たとえば集中豪雨の時などは非常に聞き取りづらい。おまけに、防災行政無線に使われる60MHz帯は、家の中まで届きにくい周波数なんです。その点、この受信機は家のどこに置いてもつながり、自治体からの情報をキャッチできます」

▲この受信機がもっと普及すれば、逃げ遅れによる被害者を減らすことができるはずですと清野さん。価格は普及している防災ラジオ型が1万7500円。

さらに驚くべきは、仮に東京中が停電になったとしても、この受信機だけは電波をキャッチすることができるという点。なんでも東京テレメッセージの基地局は東京電力本社の上に建っており、ここが倒壊でもしない限り23区のエリアはカバーできるというのだ。なんとも頼もしい話である。

というわけで、20年以上前に一大ブームを巻き起こしたポケベルは今、意外なカタチで進化を遂げていた。かつてはトレンディドラマのメインテーマになるほどトレンディなアイテムとして脚光を浴び、現在は防災の最前線で活躍するという振り幅の大きさ。おそるべしポケベル、おそるべし280MHz、である。

冒頭、過去の遺物だなんて失礼なことを書いてしまったが、ポケベルは今もなお……いや、今後はかつて以上に社会的意義のあるものとして、僕らに欠かせない存在となっていくのかもしれない。